ひと昔前は、病院で診察を受けて、薬も病院でもらっていました。
最近では病院で処方箋をもらって、それを薬局に持っていくのが普通になりました。
多くの人はこれを「面倒だな」と思っていることでしょう。
そう思われるのは薬剤師の頑張りが足りないのかもしれません。
でも「薬剤師の仕事の重要性」が知られていないのも一因だと思います。
この記事では、あなたの知らない薬剤師の本来の仕事を説明します。
「調剤」とは棚から薬を取ってくることではない
「薬剤師の仕事は誰でもできる」と言われることがあります。
その要因の一つに、錠剤を棚から取ってくるだけで「調剤料」を取っていると勘違いされていることが挙げられます。
本来調剤とは、処方箋を受け付けてから、薬を患者に渡すまでの一連の作業を「調剤」と言います。
それでも、「患者への説明が加わっただけでしょ?」と思われそうですが、それも違います。
最も大切なのは、処方箋監査(鑑査)です。
つまり、医師の処方が適正かどうかを確認するのが一番の肝なのです。
薬剤師の仕事のかなめは処方箋監査と疑義照会
処方箋のチェックと言うと、
「いやいや、医者がそんなに間違えるわけないでしょ!」
と言われそうですが、実際はかなりの割合で間違えます。
薬剤師が「これでいいのかな?」と思って問い合わせることを疑義照会と言いますが、その疑義照会は全国平均で3.2%です。
このうちの約7割が実際に処方変更になっていると言われているので、100枚の処方箋のうち、2~3枚は変更が必要な処方箋ということです。
これは2010年度のデータですが、今もそれほど変動はないでしょう。
ちなみに、疑義の中には「軟膏は1日に何回塗るのか」などの軽微なものも含まれるので、必ずしも医療事故につながるようなミスではありません。
でも中には「これは絶対ダメでしょ!」という禁忌や危険なほど過量な投与量になっているものもあります。
薬剤師はそういった薬が患者に投薬されてしまうのを未然に防いでいるのです。
僕は病院薬剤師ですが、入院中の患者には、主治医が専門外の薬を出すことも多くなります。
例えば泌尿器科の薬を飲んでいる人が、肺炎で入院してきた場合、内科の医師が泌尿器科の薬を代わりに処方しなければならないからです。
すると飲み合わせが悪い組み合わせで、処方される可能性も高くなります。
また、病院薬剤師はカルテも見られるので、「この腎機能で、この薬は使えません!」というような疑義照会や、注射薬と内服薬で禁忌の組み合わせの疑義照会も出てきます。
僕の体感では、院内だと10%くらいは疑義照会しています。
疑義照会したことを患者には伝えられない
薬剤師は疑義照会したことを患者にはあまり伝えません。
問い合わせで待たせる場合でも、
「いま先生に確認することがありまして、少々お時間をいただきます」
などと曖昧な表現をします。
ストレートに「この薬の使い方が通常とは違うので、先生に問い合わせますね」なんて言ったら、患者は「あの先生の診察は大丈夫だろうか」と不安になります。
さらに「先生に問い合わせたのですが、そのままでいいと言われたので、この通りお渡ししますね」となったら、さらに不安ですよね?
だから薬剤師ははっきり言えず、患者は本来の薬剤師業務を実感する機会が少ないのです。
「薬剤師は棚から薬を取りそろえるだけの仕事」と思われがちですが、重要なのは処方鑑査や患者の話からその薬の適正を判断することなのです。
ピッキングは薬剤師でなくてもやってよい業務
棚から薬を取ってくる作業を「ピッキング」と言いますが、実は薬剤師がやらなくても問題ありません。
これは、2019年4月2日に厚生労働省から通達が出ているからです。
これを俗に0402通知と言うのですが、要は薬学的知見を必要としない業務は非薬剤師が代行できるということを明記しているのです。
今までグレーと言われてきた事務員によるピッキングを公に許可したことになるのです。
言い代えれば、多くの人が薬剤師の主な仕事だと思っているピッキングは、厚労省も重きを置いていないということです。
薬剤師は世界中にある職業である
薬剤師不要論を唱える人は、世界中のほとんどの国に薬剤師がいることをどのように説明するのでしょうか。
世界中で無駄な仕事が行われているのでしょうか。
その答えは、前述の通り、医師の処方のチェック機構となっているため欠かせないものとなっているのです。
ただし、今後、AIの技術が進歩していけば、本当に不要な日が来るかもしれません。
でも、現段階ではまだ実現できていないので、薬剤師不要論を唱えるにはまだ時期尚早でしょう。
医師より薬剤師の方が相談しやすいことも
診察を受けているときは、なかなか自分の悩んでいる症状の話を切り出せなくて、薬局で相談する患者はかなりいます。
僕のように病院で働く薬剤師でも、
「先生に言っても取り合ってもらえない」
「先生には内緒なんだけど、この薬飲んでないのよ」
「この薬は効果がないから変えて欲しい」
などの相談を受けることは多々あります。
暇そうに見られているのでしょうか・・・。
ちなみに「孫に早く結婚して欲しいけど、結婚する気がないらしい」という話から、お見合い話を持ちかけられたこともあります。
とは言え、これはコミュニケーション能力の問題なので、薬剤師だから話しやすいというわけではないかもしれません。
ただ、患者にとって、医師に言えなかったことを相談する相手としては適任のようです。
医師は専門領域以外の薬にはあまり詳しくない
医師は自分の診療科(専門領域)については病気も薬も詳しく理解して知っています。
でも、専門領域以外の薬には途端に不案内になります。
広い範囲の薬を扱う内科の医師は、薬の知識も広いですが、あまり薬を使わない科だと、不案内な医師も多くなります。
もちろん薬剤師でも、よく処方箋が流れてくる診療科の薬はわかるけど、それ以外のことは不案内だったりします。
また病院薬剤師も、担当病棟(科)以外の薬はやや不案内です。
ただ、医師の専門外の薬の知識よりは薬剤師の方が知識量は豊富なことが多いです。
また医師は、一緒に分包(薬を飲むタイミングごとに小分けの袋に一包化すること)してはいけない薬の組み合わせや、混ぜてはいけないシロップ(液剤)や粉薬などの知識はほとんどありません。
医師は全知全能ではない
「医者は病気や薬のことは何でも知っていて、間違えることなどない」
という医者神話を信じるのはやめましょう。
間違えるだけでなく、使ってはいけない薬を知らずに使ってしまうということもあります。
「○○○(薬)は●●●(病名)の患者さんには禁忌です」
と伝えると、
「え?そうなの?」
と言われることも多々あります。
もちろん、薬剤師も完璧ではありませんが、医師も完璧ではないことを頭に置いておくべきです。
医師国家試験で全員が満点を取って合格しているわけではないですからね。
なので、医師のチェック機能として薬剤師の仕事があるということを知っておいていただけると嬉しいです。